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【ウェビナーまとめ記事】居酒屋Vook ドキュメンタリー会 <フリートーク篇>

2021.08.20 (最終更新日: 2022.07.06)

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ドキュメンタリーという奥深い世界に魅せられた3人の監督たちがそれぞれの「ドキュメンタリー観」を語り、向き合う姿勢や考え方、そして「ここだけの話」も飛び出す場となった “居酒屋Vook ドキュメンタリー会”

7月26日に行われた、このウェビナー後半の「フリートーク篇」がPremiumメンバー限定記事になりました。さまざまなトークテーマのもとで3人が意見を交わしあったこのウェビナー、是非記事でもお楽しみください。

岸田さんがドキュメンタリーの制作方法について語った前半の「レクチャー篇」は こちらのアーカイブ動画 でお楽しみください。

  • 登壇者岸田 浩和

    ドキュメンタリー監督/映像記者。ミャンマー留学を経て、2015年に株式会社ドキュメンタリー4を設立。VICE Japan「ミャンマーを癒やすクレイジードクター・シリーズ」、Yahoo!ニュース特集「香港デモ密着ルポ」「急増するブータン人留学生」の取材と制作を行う。2016年発表の短編映画「Sakurada Zen chef」は、NYCフード映画祭・最終週短編賞受賞。ジャーナリズムから広告領域にまたがる、ドキュメンタリー制作に取り組んでいる。https://vook.vc/kishidahirokazu

  • 登壇者大石 健弘

    2007年 横浜国立大学 教育人間科学部卒業後、葵プロモーション(現 AOI Pro.)入社。プロダクションマネージャーとして多数のCM制作に関わったのち、2010年 退社、フリーのディレクターとして活動開始。代表作に「不二家ミルキーみんなの笑顔篇」「マクドナルド 募金してくれて、ありがとう」「バンホーテンココア 理想の母親」等。株式会社Happilm代表。AOI Pro.ビデオグラファー育成アドバイザー。

  • 登壇者高島 太士

    演出家、ドキュメンタリスト。1979年、大阪生まれ。人の一度しかない瞬間や感情を引きだし、映像に切りとる。心を動かす強さと透明感のあるメッセージが特徴。ソーシャルグッドに特化した演出で、これまで手がけた作品は国内はもとより海外広告祭での受賞も多数。代表作はP&G パンパースの「ママも1歳、おめでとう。」など。長年にわたり広告で培った表現手法やアイデアを、社会課題解決の分野に応用し、人の心に届くストーリーをひとつでも多く生み出すことに時間を費やしている。2020年2月一般社団法人NEW HEROを設立。

代表作品が出来て変わること

高島:今回はたくさんのお題を用意しています。まずは最初のトークテーマ「代表作品」からいきましょうか。

岸田:これ聞きたかったです。高島さんの手がけた P&G パンパース「ママも1歳、おめでとう。」 は、広告ドキュメンタリー業界的にもめちゃくちゃ有名な作品ですよね。代表作品が生まれた後は、仕事の質は変わりましたか?

MOM'S 1ST BIRTHDAY ママも1歳、おめでとう。 | パンパース公式

高島:交渉が楽になりましたね。ドキュメンタリーテイストの作品というのは、広告業界でいうとメイキング・記録のように扱われていて、そもそも予算がついていないケースが多いんですよ。

ですが、最近はYouTubeなどの動画が企業のブランディングに寄与することが分かってきて、徐々に予算が付くようになってきました。その流れに乗れたことで、演出単価についてもクライアントに理解してもらえるようになって、スムーズに行くようになってきた気はします。

大石:高島さんの作品を見ていて、やっぱり予算の規模が全然違うのを感じますね。しっかりとセットを組んで、照明も焚いて、良いカメラで同時撮影。見ていて明らかに桁が違うなと感じるんですよ。根本的に画作りが違う。

岸田:たしかに、見る人が見たらびっくりしますよね(笑)。

大石:ドキュメンタリーを作り込むのって、有機的な側面を出してしまいがちなんですが、高島さんの作品は美しさが根底にあって、与える印象もまるで違うのが分かります。作り込むことさえも個性としている気がする。

高島:ありがとうございます。大石さんは代表作品が出来て、どう変わりました?

大石:僕は代表作品が出来たことで背中を押されたんですよね。「僕はこれが得意なのか!」「これだったら戦えるんだ!」 みたいな自信が、ようやく見出されてきた感じ。

代表作品は3つぐらいあります。その一つが「麻里子の教室」っていうブライダルビデオですね。広告作品では無いのですが、友だちのために作ったブライダルビデオが賞を獲りました。

花嫁になる先生へ生徒からサプライズ「麻里子の教室」 by Happilm 〜ハピルム〜

岸田:民放でも紹介されていましたよね?

大石:されましたね。いろいろなチャンネルで紹介されて、それがきっかけで電通の方が僕のことを知ってくれて、そこから大手飲料会社のドキュメンタリーを作ることにも繋がりました。その時は、初めて自分の戦える領域が生まれて嬉しかったし、勇気が出ましたね

岸田:皆さん波の掴み方が上手いですよね。

大石自分の武器を手に入れた! って感じで、ポジティブになれました。

ドキュメンタリーにおける「演出」と、忘れてはいけない「リスペクト」

岸田:ドキュメンタリーに演出があること自体知らない方もいると思いますので、演出手法については是非お二方にお聞きしたいですね。

高島:僕は 「誰にすべきか」を決めるところに一番時間をかけます。ドキュメンタリーって、出演していただく人の気持ちを作品に盛り込むので、気持ちを整理していただく時間は必ずとりますね。あとはセットであったり、いろいろなものを作りこむことで「その場所に出演者さんが来ると、想像した通りに感極まる」ようにするとか。演出に関してはものすごくこだわりますね。

大石広告ドキュメンタリーはキャスティングが命 ですよ。どれだけテーマに沿った思いを持っている人を探せるか。

岸田:例えば、高島さんの不妊治療をテーマにした作品。何組かのご夫婦がシャッフルして初対面の人にそれぞれの悩みを話し、その後ご主人と奥様とでもう一度話す企画があったかと思います。

僕がびっくりしたのは、赤の他人に話をして、その後自分のご主人のところに帰ってきて感極まって泣いてる方がいたこと。あれをどこまで演出設計したのか気になりました。

高島:僕の場合は独白というか、胸に秘めていることを声に出すのが美しい と思っていて。どの作品でも、とにかくそれを映像に納めたいんです。

それは待っていても出てきません。でも、環境を作ると人は背中を押された感じで気持ちを出せる。テーマに対して「できるだけ喋りやすい環境」って何だろう、と常に考えていますね。

この作品の場合は、同じ境遇にある別のご夫婦であれば話しやすいはずだと考えました。でも、それだけでは話すことは難しいとも思ったので、質問は僕が用意しました。話し合う組み合わせも全部僕が決めています。それぞれの悩みを整理して組み合わせを考えると、上手く行きます。

岸田:それぞれと面談して「このご夫婦はこういう課題をもってる」「この奥さんはこんな考え方をしている」というのを全部把握して決めているのですか?

高島:そうですね、自分で全部やります。

大石:すごいな...。ちなみにお話ししてもらう方は、多めに採用してますか?

高島:よく聞かれますが、「撮影したけど出ません」っていうのは失礼なので、3組で撮影するなら「3組でいきます」とはっきりと決めます。

大石:その姿勢はめちゃくちゃ共感します。ドキュメンタリーって、被写体に対するリスペクトだったり、味方であることがものすごく大事

岸田:雑なやり方をすると、多めに撮って後から選べばいいとなって「人を人として見てないんだろ」ってなりますもんね。

大石:もっと一般的なインタビューであれば多めの方が良いかもしれませんが、撮影させていただいている出演者に対して、リスペクトだけは忘れちゃいけないんです

制作者の意図を感じさせない作品設計

岸田:あらためて高島さんの「ママも1歳、おめでとう。」は、すごかったですね。出演している方が、最高のタイミングで感情を表に出すんです。あのベストなタイミングで感情を出してもらうために、どういう仕込みをしたのか気になります。

MOM'S 1ST BIRTHDAY ママも1歳、おめでとう。 | パンパース公式

高島:1歳児検診をセットにしたプロモーション映像なんですが、出演していただいている方にはサプライズをしかけています。旦那さんにだけネタバラシをして、協力していただいているんです。

大石:正直、観た瞬間「悔しい!!」ってなりましたよ(笑)。

高島:この作品では、50人ぐらいのお父さんと話しました。本当にいろいろなお父さんがいましたね。出産にしっかり付き添っているお父さんもいれば、中にはキャバクラに行ってたようなお父さんもいる。いろいろなお父さんの中から凝縮して、この作品の趣旨に賛同してくれるお父さんを探しました。

岸田:お母さんは本当にびっくりしてて、素の表情でしたよね。カメラの位置はどうなっていたんですか?

高島:廊下に飾っているサプライズ写真の奥に、壁の装飾と近いボックスを立てて、その中に1台メインカメラを入れました。あとはいくつかGoProなども置いたのですが、映像は基本的にメインカメラの一発撮りを使っていますね。

岸田:カメラは動かせないですよね?どうやって良い表情のところを撮ったんですか?

高島:廊下の長さに対して、やっぱり一番顔のサイズとちょうどいいところで感極まってほしいじゃないですか。だから、3枚目のパネルにフォーカスを合わせた設計になっています。まずは入り口の写真で驚かせて、3枚目で感情が一番来るように、写真の順番もいろいろ想像して決めました。

大石:話を聞いてすごい納得します。いかに本人に撮影であることや制作者の意図を感じさせない設定を与えて、当日を迎えられるか。サプライズドキュメンタリーを撮る上でのベースですよね。

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