「私の映像哲学」、AC部さんへのインタビュー後編です。映像制作だけにとどまらず、展示やグッズ制作、紙芝居パフォーマンスなど、この10年で広がり、深まり続けてきたAC部の多彩な活動についてのお話をメインに。
クリエイターが苦しい時期を突破するための秘訣とは? 仕事を受ける・受けないの判断基準は? 人気キャラクター、イルカのイルカくん誕生秘話も。
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【AC部 インタビュー(前編)】どこにもハマりきれないから初期衝動を失わない。かっこよすぎる映像のつくり方
好評のロングインタビュー連載「私の映像哲学」。4回目のゲストはAC部さん。 1999年にデビューしたデザイン・ユニットですが、「中毒性が高い」とまで評される独自の表現スタイルを武器に、20年以上...
インタビュー&構成:河尻亨一(編集者・銀河ライター)
写真:押木良輔
デビューから10年。「イルカセラピー」が転機になった
——違和感と本気度を強みとする「AC部らしさ」について、そのらしさから生まれる「かっこよすぎる映像」について、お話うかがってきました(前編)。
ここからはさらに詳しく、各作品の制作プロセスやエピソードをうかがってみます。アイデアはお二人で出し合うんですか?
安達 そうですね。持ち寄って、ぐちゃぐちゃっと考えていきますね。
例えば、さっきのミュージックビデオ(「マジカルDEATH」)の場合だと、最初はひねりなく曲の印象から考えていったんですけど、それだとそんなに面白くならないなと思い、言葉の取り違えというか、勘違いを入れようということになって……。で、どうしたんだっけ?
板倉 あの曲の場合、ストレートな解釈だと誤解が生じかねないと思って、健全なビジュアルに置き換えようとしたというか。
このPVに限らず、昔から気をつけているところではあるんですけど、人を傷つけるような表現は避けてるんです。僕らも作風的に勘違いされやすいところがあるので。
安達 著作権のことなんかも、仕事を始めた頃からかなり気をつかってますしね。「トンガってる」って言うと、イリーガルなものをイメージするかもしれないけど、そうじゃなくて、「健全だけど面白い!」というふうにしたいんです。健全でも、全然とんがれるよっていう。
——「健全」もキーワードかもしれませんね。とんがった絵と中身のギャップもまた"AC部らしさ"なんじゃないかと。NHK「みんなのうた」の映像をつくってるくらいだから(哲学するマントヒヒ/2003年)。
安達 プロデューサー的にはそれが狙いだったみたいですね。あんまり「みんなのうた」っぽくしてほしくないと。僕らもまだ仕事の経験が少ない頃でしたから、最初はわりとかわいく見せようとしていたんですけど、そうじゃないと。それでつくりなおしたんですけど、この映像は子どもに見せてもまったく問題ない(笑)。
——イルカのイルカくんはどうでしょう? 「THERAPY」(group_inou/2010年)のPVから生まれたキャラクターですが、人気者になって絵本が出たり、いままさに個展まで開催されているという(9月14日まで伊勢丹新宿店にて)。
板倉 「THERAPY」は転機になりました。ちょうど10年目くらいの頃の仕事なんですけど。テレビ局の仕事をいっぱいやっていた時期で、量産っていうんですかね? 長尺の映像を短い納期でつくるサイクルの中で、AC部らしさが薄まっていってる印象が自分の中にあって。
凝った映像をつくりたいんだけど、そんな時間はないから、うわべだけさらっとAC部っぽくしておくみたいな。それでつくっているのが苦しくて。
安達 ちょっと混沌としていた時期ですね。商業の波にもまれすぎて、立ち位置がちょっと揺らいでいた時代というか。
「THERAPY」は全体的なパラメーターをぐっと上げられた気がしますね。どこっていうわけでもないんですけど、自分たちの中でいろんなものがひと皮むけた手応えはありました。
左:板倉俊介氏、右:安達亨氏
板倉 この仕事は、納期はいつでもいいって言われたんです。納期なしのミュージックビデオってすごいチャンスで、1回リセットしてつくれたのが大きかった。振り返ってみると、苦しいときとか、いいタイミングでそういう仕事がくるように、うまくできているのかなあという気もします。
苦しいときも妥協せず。見る人の脳に負荷を
——いいときと悪いときってだれでも体験するものですけど、苦しい状況を突破するための秘訣はありますか? そこにもAC部らしいやり方があったりするのかと。
安達 秘訣は……ないんですよね(笑)。結局、どうやっても逃げられないというか。「ああ、つらいな」と思って逃避しても、何も解決にならなくて。でも、一個一個作業を進めていくと、ちょっとずつつらさが取れていく。
そう考えると大事なのは、「やめないで続ける」っていうことですかね。まず、終わらせてみる。終わったからと言って、つるんとひと皮剥けるというわけにはいかないけど、気分はだいぶ変わる。うまくいくにしろ、いかないにしろ少し前に進む。その繰り返しなんじゃないですか。
板倉 苦しいときも、妥協はしていないんです。そのときの中で精いっぱいやっているから。いままで妥協したっていう感覚はなくて、それがあるからつながっていくのかもしれない。
続けるためには、自分をおだてるための思いこみも大事だと思います。数週間後の自分は絶対やれていると思いこんで、ちょっと描いてみる。それで「あ、いい感じじゃん」って自分を盛り上げていく。「苦しい、苦しい」だけでつくり続けると、本当にすり減っちゃいますから。
安達 そうですね。なんだかんだ言って、楽観主義というのかな。わりと心配性ではあるんですけど、「最後はなんとかなるかな?」っていうのがベースにあって。それで続けられているというのもありますね。
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