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【奥山由之インタビュー(後編)】嘘をつかず矛盾に向き合う。そんな映像が人の心を揺らす。

2021.12.17 (最終更新日: 2022.06.27)

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Vook特別ロングインタビュー「私の映像哲学」。奥山由之さんへのインタビュー後編をお届けします。
▼前編はコチラ

【奥山由之インタビュー(前編)】検証を重ねるからこそ、気づくゆとりが生まれてくる

Vook特別ロングインタビュー「私の映像哲学」。今回のゲストは奥山由之さんです。 2011年に写真家としてデビュー、以来数々の意欲的な作品集を発表するだけでなく、映像ディレクターとしても話題のM...


2011年に写真家としてデビュー、以来数々の意欲的な作品集を発表するだけでなく、映像ディレクターとしても話題のMVやCM、ファッションフィルムを手がける奥山さん。
後編では、ポカリスエット「でも、心が揺れた篇」などのエピソードを中心に、映像と写真の違いと共通点についても聞いてみました。正直に時代を生き、運を手繰り寄せるために必要なこととは?
インタビュー&構成:河尻亨一(編集者・銀河ライター)
写真:押木良輔

動くもの、刻々と形を変えるものが好き

——「感電」(米津玄師)以外の仕事についてうかがってみます。Mame Kurogouchi(マメクロゴウチ)のコンセプトムービーも、「どうやって撮ってるんだろう?」と思いました。合わせ鏡の中で描かれるショーが摩訶不思議というか。

奧山由之氏(以下、奥山) 鏡の配置がセンチ単位で決まっているんです。6枚の鏡を使っているのですが、ひとつでも角度がずれると、あの映像は撮れなくて。「鏡の左端は壁から何センチ、右端は何センチのところにこの角度で置きます」といったことを、プレビズで検証した後、現場で厳密に測量しながら作りましたね。

——測量(笑)。奥山さんは写真家でもあるから、やっぱり撮影へのこだわりが強い?

奧山 いや、よくご一緒する撮影の川上(智之)さんには結構お任せしていますね。信頼しているので。でも、確かに撮影部に対する無理難題や、リクエストは多いほうではあるかもしれません。

——映像でスモークをよく使うのはなぜですか。無意識?

奧山 そうですね。そんなに意識はしてないんですけど。

——じゃあ紙吹雪は?

奧山 スモークにも共通しているかもしれないですが、「動いているもの」や「刻々と形が変わるもの」が好き なんです。僕に限らず、人って変化が好きなんじゃないかと。ポジなことでもそうだし、ネガなことであっても。ありますよね? 突然大雨が降ってきて、「ああ、困ったな…」なんて会社の同僚と話しながら、ちょっとだけテンションが上がっている自分に気づくなんてことが。

——わかります。いやなことであっても、変化が気持ちの原動力になるというか。

奧山 きっと高揚するんですよね。「ああ、あのお店閉店しちゃうんだ、悲しい」って思っているんだけれど、その反面どこかで気持ちが昂っていたり。例えば、人気の浮き沈みであったり、結婚や離婚といった人間関係の分かりやすい変化に対して、なぜだか人間は強い興味を示しますよね。

——不思議ですよね(笑)。本能みたいなものかも。どこかのインタビューで奥山さんが「映像は変化の連続」っておっしゃってるのを読みましたが、それって当たり前のことのようで、そこまで掘り下げて捉えると面白いですね。

奧山 僕は写真作品も作ってますけど、流動しているものが感覚的に好きで、写真であれ映像であれ、考え方やスタンスはそんなに変わらないというか……。でも、どうなんでしょう? それはちょっと違うかもしれない。

——映像と写真の違い、あるいは共通点の話は聞いてみたいですね。奥山さんがつくる映像の中に、写真的な感覚や技術は生きているのか。

奧山 「写真と映像」という話で言うと、写真的なエッセンスを映像に取り入れているかというと、その意識はあまりないんです。むしろ映像でやっていることを写真でもやっている、という感覚がありますね。

もともと中学高校でアニメーション映像をずっと作っていたんです。大学に入ってからも実写の自主映画をしばらくつくっていたんですけど、途中から写真を撮るようになって。でも、結局、映像のキャリアのほうが長くて。

そのせいか、写真を撮り始めてからも、僕は画角や質感、色味にほとんど興味がなく、「何を捉えるか?」が一番大事なんです。人物にしても、その人に「何をしてもらうか?」ということへの関心が強くて。

写真で「点」を打ち、映像で「線」を描いている

——なるほど。モデルというより役者として被写体を捉えてる、ということなのかも。「映像でやっていることを写真でもやっている」という話を、もう少し詳しくうかがうと?

奧山 写真は「点」で、映像は点と点がつながって「線」になっているという感覚があります。僕の場合、写真って、最初からある特定の瞬間を狙って切り取っているわけではないんです。「線」になるくらいにたくさんの瞬間を集めていって、その中からひとつの「点」をあとで選んでるというか。そのとき「線」の部分は、見る人の想像に委ねられるんですよね。

——イメージを膨らませたり、物語を読み取るというようなことですね。

奧山 ええ。「点」にすることで表現としての余白が生まれて、いろんな捉え方をしてもらえるようになる。撮影した瞬間の前後だったり、被写体と撮影者との関係性だったり。そこを見せすぎない”色気”が写真という表現にはあるなと思っていて。

”色気”っていうのはエロという意味ではなくて、ある種の奥ゆかしさや断定しすぎない不安定さなんですけど、写真をはじめたときの自分には、その感覚が心地よくフィットしたというか、手なじみがよかったんです。それで写真を撮るようになったんですけど、そうやって「点」を打つ行為をしていたら、今度は「線」を描きたくなってきて。

——じゃあ、やっぱり最初から写真も映像のように撮っていた?

奧山 どっちが好き、嫌いとかはないんですけどね。写真を撮っているうちに、やっぱり映像じゃないと伝えられないことがあると思い始めて……。

矛盾した話になってしまうんですけど、「点」を打ってその前後や関係性を想像してもらう行為には、答えがないんです。だから、明確な「線」を見てもらうためには、自分で描くしかなくて、いまはそこを自分で描きたいと思っているというか。「点」と「線」を行ったり来たりしてるんですけど。

——人に委ねたいときと、自分で決めたいときがあるのかも。

奧山 自分の中で矛盾があるのかもしれませんね。でも、そういうことに関心があるせいか、さっきもお話したように撮影の技術的なことにはそんなに興味がなくて、今年つくったポカリスエットのCМ(「でも心が揺れた」篇)でも、画角については、現場で川上さんにほとんどリクエストしていないんです。「起きている出来事をドキュメンタリー的に捉える」ことをしたかったので。

どこからどう撮るということよりも、「人物がどういう気持ちなのか?」「この映像の中で、どう存在しているか?」が重要でしたから、モニターのほうは見ていなくて、肉眼で確認して、登場人物たちの気持ちやその様子が間違っていなければ、あとは、それが映ってさえいれば伝わるものはブレないはずだ、という意識でやってましたね。

——映像でも写真でも、アートディレクター的に俯瞰して捉えているところがあるのかもしれません。いずれにせよ矛盾に向き合ってるのはいいですね。ある種の”揺らぎ”みたいなものが、奥山さんの仕事の魅力だと思うので。

奧山 性格もそうですね。すごく神経質にキッチリ決めないといけないと思っているところと、結構適当なところ、の両極があります。でも、何ごとも相反する要素が混在するもので、僕は一面的に描かれるものに対して、あまり魅かれないというか。ただ「カワいい」だったり、ただ「カッコいい」、「ただ甘い」「ただ辛い」という表現は、物足りなく思えるんです。

人にせよ出来事にせよ、何かが絶対的な100%の悪で、なにかが100%の善ってないですからね。掘り下げてくと、悪と善は表裏一体だったりする。世の中って結局そういう矛盾で成り立っているはずなんですけど、相反するものが混在しているのって複雑に見えるし整理しづらいから、世の中的には「どっちかにしてほしい」となりがちですよね。

——白黒はっきりさせてほしいと。

奧山 そうなんです。いまって短時間で手に入れられる情報量が多いせいか、わかりやすくカテゴライズできないものは理解してもらいにくい時代に入ってるなあと思います。でも、僕はわからないものにこそじっくり向き合いたいし、わからないものの中にある矛盾に目を向けて、そういうものこそ描きたいんです。

光があれば影があるように、本当は物事は表裏一体のはずなんですよ。表があれば絶対に裏が存在して、両者は一体化しているはずなんですけど。

これ、『BACON ICE CREAM』(2016年)という写真集で、風景から人物、作品からクライアントワークまでそれまで自分の撮ってきたすべてを混在させて、1冊にしているんですけど、このタイトルって実は”写真”という意味なんですね。

どういうことかと言うと、「ベーコン・アイスクリーム」って実在する食べ物で、アイスクリームにベーコンを混ぜこんでいて、甘さと辛さが共存してる。それと同じで光と影って矛盾の最たるものなんですけど、その両方がないと成り立たない写真という表現は、おのずと矛盾を内包せざるをえないんです。

——虚実皮膜ですね。クリエイティブの一番の極意は噓と真実のあいだにあるっていう。

奧山 ほんと、そうだと思います。矛と盾が重なったとき、その間にあるものに目を向けられるか、気づけるかどうか。抽象的ではありますけど。矛盾が好きだなあって。

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