中小規模プロダクションや個人の制作において、"後回し"されがちなデータ取り扱いやネットワーク構築など、いわゆる「インフラ」や「バックエンド」にあえて焦点を合わせ、実際の構築事例を取材させていただいて紹介していくシリーズ企画「裏(バックエンド)を聞く」。
第3弾は、VTuber事務所でありクリエイター集団でもある「ProjectBLUE」さんが運用するモーキャプスタジオ&バーチャルライブシステム「vortex(ヴォルテックス)」さん!
vortexは、「ProjectBLUE」が運営する全てのVTuberにとって最高のライブ空間を提供したいという想いから生まれたバーチャルライブ空間。それと同時に、モーションキャプチャースタジオ、バーチャルライブ制作・運営を行なっている小規模チームです。
今回も全4回通して、小規模・若手のみで目まぐるしく運用されているvortexさんのバックエンドやワークフローを掘り下げていきます。
vortex(ヴォルテックス)
取材に応じてくれた、タナカリョウタさん(左)と、mamiya(右)さん
https://vortex-live.com/
現在の制作体制について
――まずは自己紹介と、ご所属されているチームについて教えてください。
タナカリョウタ(以下、田中):
vortexで行われるライブの制作統括・総合ディレクターをしています。導入している音響・照明機材に関しての選定なども担当しています。
mamiya:
vortexにおけるテクニカルディレクターをしています。Unityに絡むCG関連機材などを見る機会が多いです。
タナカ:
現在、ProjectBLUE所属で「vortex」チームの運営に携わっているスタッフは10名弱です。自分たち(vortex)とタレント部署とで、きっちり分かれて動くようになっています。

――「vortex」とは、どのようなチームですか?
mamiya:
「vortex」は、VTuber向けモーションキャプチャスタジオと、バーチャルライブ制作(空間の制作ならびにライブシステム)共通のブランドになります。
ProjectBLUEが「vortex」を運営をしていると思っていただければ。
タナカ:
コンセプトは、リアル(現実)のライブハウスの醍醐味をバーチャルライブのような空間でも味わってもらうことです。
自分たちで企画・興行するライブを現在は集中的に行いつつ、外部のライブ案件にも携わらせていただいたりしています。
現在のスタジオができるまで
――現在の体制になるまでの経緯を教えてください。
mamiya:
結成当初は参加していなかったので、知っている範囲でお話しますね。
元々は「エルセとさめのぽき」(以降、エルぽき)という、VTuberユニットを作りたいという思いでごく少数でサークル的な活動としてスタートしたのが始まりでした。
【LIVE ver】星詠みの唄 (エルセとさめのぽき) in vortex
mamiya:
活動の幅が広がっていく中で、タレント事務所的な形でチームとしても拡大していきました。
「この経験を活かして、エルぽきの音楽活動をもっと増やしたい」と考えていた矢先にコロナ禍に……。
音楽活動を増やしたい時期のコロナ直撃に加えて、個人で活動されているVTuberさんと多くつながっていたことも加わり、「このままではVTuber界隈の音楽が終わってしまうのではないか?」という危機感がチーム内で強まりました。
ちょうど自分がProjectBLUEへと参加をしたタイミングで、開発の手が回りやすくなったことも相まって、クラウドファンディングを通じてモーションキャプチャー機材をアップグレードすると共に、パッケージ化したライブシステムを提供することで個人VTuberさんでも安価に使っていただけるサービスとして「vortex」が誕生しました。
ライブシステムを開発するにあたって、リアルライブの現場のような音響や照明を取り込みたいという思いがあり、実際のライブ制作経験のあるタナカを人づてに紹介してもらいました。

タナカ:
相談を受けたことをきっかけに、vortexのオペレーションを手伝うようになりました。
元々、ライブハウスなどで実際に行われているライブイベントの制作経験があったので、vortexにも自分のスキルがガチっとハマった感じですね。
また、vortexの展望などをチームの中心にいた「さめのぽき」から聞いて意気投合しました。
――スタジオの移転も同時並行で進められたのでしょうか?
タナカ:
vortexが誕生する以前から使っていたスタジオは、物理的なスペースの制約などからモーキャプスタジオとしては難がありました。
そこで、vortexを正式なサービスとしてローンチするにあたって、より良い物件を探していたところ、この場所に落ち着きました。
そういった経緯があるスタジオなので音楽カルチャー、特にVTuberの音楽への貢献という思想がずっとあります。
バーチャルライブを行うのが初めてという人でも手が出しやすいように、パッケージ化をしてコストダウンをしていて、VTuberさんたちの音楽カルチャーが盛り上がってほしいと思っています。
――超都心という良い立地にしっかりとしたモーキャプスタジオ兼ライブ配信スペースが誕生したわけですが、この場所の決め手があれば教えてください。
mamiya:
以前のスタジオが元々vortexの運用を想定していなかったこともあり、キャプチャエリアに演者さんが3人も入ったら手を広げることができない狭小スペースでした(苦笑)
そのため、演者さんに横並びを避けてもらったりと、運用時の工夫でしのいでいました。さらに、演者さんや付添のマネージャーさんが待機するスペースも最低限しか確保できていませんでしたね。
そこで不動産屋さんに「歌を歌えること」「キャプチャエリアに利用できるスペースが広いこと」「キャプチャ精度を確保するために高い天井であること」「できるだけ都心」といった要望をお伝えしたところ、いくつかの候補の中にこの物件がありました。
他の条件面でも魅力的だったので、ここに決めました。不動産屋さん、様々です。
タナカ:
以前のスタジオには狭さ由来の問題が大きく3点ありました。
<1>キャプチャエリアが狭かった
<2>オペレーションエリアも狭かった
<3>待機場所がほぼなく、多くの演者さんを一度に呼べなかった
今のスタジオは特にこの3点を解消しようとした結果、キャプチャエリアが広いことはもちろん、待機エリアも演者さんが落ち着けるように広くデザインし、オペレーションルームも十分な空間を確保することで「ライブパッケージ」として十分な機能を発揮できるようにしています。
システム面で言えば、常設配線は綺麗に整頓したいということで、OAフロアになっている物件で、引越時にネットワークや電源配置に至るまで綿密な配線計画を行いました。
💡 OAフロア
床下配線用に、専用の底上げがされている床材。ブロック単位で床を開けて配線を通せるような仕組みになっている。
スタジオのホスピタリティについて
――今取材でお邪魔しているエリアが、普段は演者さんの待機エリアになるわけですよね。待機エリアのこだわりを教えてください。
mamiya:
エルぽきがゲスト出演として、別のスタジオさんにお邪魔させていただいたときの経験をふまえて、このスタジオを作る際にどうしたら多くの演者さんに良いスタジオだったと感じてもらえれるのか、という観点から考えていきました。
タナカ:
vortexに参加しているスタッフが色んな経緯・経歴の人が多いので、演者視点だけではなく様々な視点から「ライブイベントがやりやすい」スタジオとして構築しました。
自分はリアルライブの制作経験の視点で、mamiyaはCGテクニカルとして、さめのぽきが演者の立場から「バーチャルライブを作るためのモーキャプスタジオ」に対して様々な視点で意見を出し合った結果として出来上がっていると思います。

――実際にとても快適で、お洒落な空間だと思います。ホテルのロビーみたいだなと。
タナカ:
今いる待機エリアは、演者さんや付添のマネージャーさんにも過ごしてもらいやすいように、主にさめのぽきが中心となり決めていきました。
本番前の演者さんがリラックスできるようにと、暖色系の照明を使っています。
それに対して、キャプチャーエリアやオペルームは本番の空気に切り替えてもらうためにも色温度の高い白い照明を用いています(※第2回、第3回にて紹介)。
エントランス近くにはカフェのカウンター的なスペースも用意しました。演者さんの付き添いできたマネージャーさんが待機中に、ここでお仕事などをしていただく想定です。

mamiya:
本番前は緊張されている演者さんも多いので、アメニティの観点からも工夫しています。
(取材陣の)ちょうど真後ろにあるのが、「スターバックスコーヒーメーカー」や「ドリンクコーナー」です。インスタントですけど味噌汁などのスープも用意しました。
ほかにもホットアイマスクなんかのリラクゼーショングッズも揃えていますよ。
▲ドリンクなどが置かれたコーナー。ドリンクコーナーの最上段には、取材対応のため行き場を失った「さめのぽき」ぬいぐるみが積まれていました(笑)
——入口にある「ポップコーンマシン」が気になりました。
タナカ:
以前のスタジオでのライブ時に、狭いなりに楽しんで過ごしてほしいと思い、「イベント=お祭り」のノリで縁日っぽい空間を作ってポップコーンマシンを置いてみたら、すごい受けが良かったんですよ。
実は移転に際して廃棄も考えたのですが、「vortex(ProjectBLUE)に来たら、ポップコーン!」という認知が一部の演者さん達の間で広がっていることを知り、持って来ました。結果的に、インテリアにも馴染んでいるなと(笑)


――ほかにも待機エリア周りの設備について教えていただけたらと思います
タナカ:
室内用の防音室があり、普段はProjectBLUEの所属タレントが自宅でできない配信をする場合に使えるようにしてあります。
ライブの日は扉が閉じれる性質を活かして、キャプチャスーツへの着替えができる更衣室に転用しています。
すぐ横には鍵付きロッカーも準備して、かさばる手荷物を預かったりもします。
洗面台・トイレエリアには使い捨ての歯ブラシや綿棒などを揃えていますし、リラックスしてもらえるようにアロマオイルも用意しています。
▲更衣室としても利用できる配信用防音室
mamiya:
キャプチャエリア手前には、直前にキャプチャマーカーやマイクなど体に密着するものを付ける物品を保管している棚を配置しつつ、演者さんにすぐ水が渡せるようにもしています。

いかがでしたか? 次回はスタジオの中心部、キャプチャエリアについて深掘りします!
▼ 続きは、こちらから!
【モーションキャプチャ】映像も音声も予備システムを確保!|vortex<4-2>
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INTERVIEW_黒井 心 / KUROI Shin、岸本ひろゆき / KISHIMOTO Hiroyuki
TEXT_黒井 心 / KUROI Shin
EDIT_沼倉有人 / NUMAKURA Arihito(Vook編集部)
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、様々なクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
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