今まさに盛り上がりを見せている 「縦型動画」 。
スマートフォンによって縦画面が当たり前になったものの、まだまだ「縦型動画」を作る、その一歩を踏み出せていない映像クリエイターも多いのではないでしょうか?
特に縦型のドラマ作品を作ろうとすると、横画面で制作する構成とは異なる部分がたくさんあります。スマートフォンで見るということに特化した縦型動画の特徴を、物語演出に活かす工夫が必要になるのです。
そんな中Vookでは、「縦型動画」の演出を伝えるべく、10月28日に「【 必修!「縦型動画」とクリエイターのこれから② powered by Nikon】映画監督に聞く “縦型“が生んだ演出の新境地」と題したウェビナーを開催しました。
この、-Nikon Presents- Vertical Movie Award 2022と連動して行うウェビナーシリーズ第2回に登壇していただいたのは、縦型のショートドラマなどを配信する「LINE NEWS VISION」にて『つながりたくて、嘘をつく』の監督を務めた柳 明奈さんと、『ソムニウム』を監督された亀山 睦実さんです。
講師
映画監督
柳 明奈 / Akina Yanagi
高校在学中に映像・写真を学び、帰国後、テレビ番組『ASAYAN』カメラマンオーディションで優勝。映画は、リアルと連動したクロスオーバーフィクション作品と呼ばれる手法を用い注目を集め、国内外の映画祭で上映される。TV-CM・WEB-CM・MV・舞台の映像演出と多岐に渡り活動。2019年 ⻑編映画『いなくなれ、群⻘』の監督作品が公開。
映画監督(ノアド株式会社)
亀山 睦実 / Mutsumi Kameyama
1989年、東京都葛飾区生まれの映画監督・映像ディレクター。
日本大学芸術学部映画学科卒業後、2016年にノアド株式会社に入社。
映画やドラマの監督・脚本、CM・TV・MV・2.5次元舞台のマッピング映像演出など様々な媒体での企画・演出を担当。
主な映画・ドラマ作品は『追いかけてキス』『マイライフ、ママライフ』『12ヶ月のカイ』『ソムニウム』等。
ファシリテーター
bird and insect CEO / Image Branding Director / Photographer
shuntaro
1985年、東京生まれ。京都工芸繊維大学で建築・デザインを学び、広告系制作会社を経てフリーランスへ。2013年、University for the Creative Arts で写真の修士号を取得。その後、bird and insectを立ち上げ、代表取締役を務める。2017年には、日本のファッション写真史の研究で博士号も取得した。
お二人に自身の作品制作を通して、縦型動画ならではの演出の特徴、そして作品のこだわりについてお伺いしました。
▼『つながりたくて、嘘をつく』:柳 明奈 監督
https://news.line.me/issue/oa-vi-kasamatsu/s59gowjsevy6
Cast 笠松将 清水くるみ 他
▼ 醒めない夢を、ぼくらは創る『ソムニウム』:亀山 睦実 監督
https://news.line.me/issue/oa-vi-somnium/h3mgc5g8qyo0
Cast 塩野瑛久 山本真由美 他
「縦型動画の連続ドラマ」で意識した演出のポイント
今回の柳明奈さんの作品『つながりたくて、嘘をつく』、そして亀山睦実さんの作品『ソムニウム』。作品を作る中で、どのように「縦型」を意識したのでしょうか?
柳:
『つながりたくて、嘘をつく』は、日常的に見ているスマホの画面が、急に非日常なものになる感覚を大事にしました。いつも見ているものの見え方がどんどん変わっていって、信じているものが信じられなくなるように意識したのです。なので、見ている人によって結論の見え方は異なると思います。作りとしては結末の意図は明確にしているのですが、あえて抽象的に描いているのが、この作品の特徴です。
それと、作品を通してユーザーのスマホをジャックしたかったのです。全面メールの画面やLINEに似せた画面、そこに唐突に来るメール、他人のメールのやりとりを覗き見しているような感覚、いつも日常で見ているものの中に非日常が突然出てきて、その往復をしていくと段々と境界線が分からなくなってくる。この錯覚を生み出すことを大切にしました。
縦型ということで「スマホでサクッと見る」ことも意識しています。展開を早くすることで、サクッと楽しめるスマホならではの作品にしました。
亀山:
私も縦で撮影したのは『ソムニウム』が初めてだったので悩みました。横の画面と違ってサイドがないので、お芝居中にシーンの状況説明ができないのです。なので、あまりカットを割らずに役者の動きを追って長く撮影することで、「今ここに移動した」という説明ができるようにしました。
あとは、連続ドラマなので「次はどうなるんだろ?」と、観客の想像を掻き立てるような瞬間を作るように意識しました。撮り方というよりは脚本の工夫ですね。連続ドラマにおいては、脚本の作り込みが大切だと思います。
縦型動画で考えなければいけない「照明」と「録音」の機材配置
縦型動画ならではの構図は、どういったところを意識したのでしょうか?演出や表現についてお聞きしました。
柳:
縦型動画は状況説明がしづらい分、顔にフォーカスがいきやすいので、横の動画よりも「感情」や「表情」にグッっと入り込める気がします。視聴者との物理的な距離も近いので、見せたいポイントでアップを入れると、インパクトも強く非常に効果的だなと思います。ポンッとアップが映し出されると、結構ドキッとしますね。没入感が生まれやすいのかもしれないです。
私自身、「どういう感情を見ている人に届けたいか?」を意識しているので、どこにフォーカスを当てるか都度カメラマンとコミュニケーションを取って探っていきます。もちろん役者を邪魔しすぎないことが前提ですが、どちらかというと“カメラマンが芝居をする”みたいな感覚が強いかもしれません。
亀山:
普段みなさんがスマホで動画を撮る時は縦かと思います。なので、自分で撮ったかの様な画角を意識して撮影したシーンがいくつかあります。あとは、役者が奥から手前に来る動きを縦で撮ると、いきなり近づいたように感じるので、より「近づいてきてる感覚」を演出したい時には良いかもしれません。
柳:
逆に縦型は部屋を広角で撮影すると、天井や床が丸見えになるので、普段活かさない天井の蛍光灯を付けて撮影しなければならず、照明を組み上げるのが難しかったりしますね。
亀山:
それは私も感じました。横で撮影する時は照明やマイクをカメラに映らない上の方の位置に置くので良いのですが、縦にするとバレちゃうんですよね。どこに照明とマイクを置くのかは縦型動画の撮影中かなり考えさせられました。
柳:
縦型動画になると、照明部と録音部は大変になると思います。『つながりたくて、嘘をつく』では、普段の手法はもう無理だと判断して、テーブルの下やベットの下など、隠せるところにいっぱいマイクを仕込みました。
亀山:
私もテーブルの下とかにマイクを置いていました。寄りのショットはガンマイクを出して録れるのですが、引いた時は一工夫必要になりますね。
「演技をカメラで追う」ための、こだわりのライン
縦型動画に関しては、これまでの横での撮影方法が通用しない場面が多々あります。役者に指示を出す際のポイントとして、「芝居重視」か、「カメラファーストで演技をさせる」のか、お二人に伺ってみました。
亀山:
私は基本的に役者さんに1回お芝居をやっていただいて、後からどこをどういう風に撮りたいかを考えることが多いです。実は縦に限らず横の時もそうしています。役者に一旦お芝居をしてもらい、その上でどう切り取ったら見ている方がグッと入り込んでくれるのか、現場でカメラマンと決めていきます。
『ソムニウム』では「ヒューマノイドを作る人たちの物語」と「塩野さん、山本さんのお芝居をしっかり見せる」という2軸で撮影していったので、作りとしてはカメラファーストにはできませんでした。彼らのお芝居をカメラ側が追っていく、ドキュメンタリーのような動きになっているかと思います。
柳:
私はそもそも「芝居重視」の定義が人と違う気がします。結構キャストに動きをつけるタイプの演出をするんですよ。つける動きも、カメラの撮り方に合わせていたりします。もちろん役者が演じやすいか演じにくいかもあるので、対話しながら作っていきます。突き詰めると、カメラも芝居も両方ベストなところを狙っていきたいのです。それが人から見ると、若干カメラファーストに見えるかもしれません。
亀山:
とはいえ、役者も縦型動画になるといつもよりお芝居できる範囲がグッと狭くなることが分かっているので、意図を組んで他の役者と距離を詰めてくれることがあります。
柳:
そうですよね。距離感が分かっている役者だとありがたいのですが、人数の多い撮影になるとこっちから意図的に寄りにいかないと映らないことがありますよね。役者同士の距離が近くないと、向き合って話すような構図はなかなか撮れません。カットバックくらいしか対話を表現する手段がないので、基本的には役者に動いてもらうと良いかもしれません。
“食べ出したら止まらない” スマホファーストな映像
先に「縦型は状況説明がしにくい」というお話がありました。では、縦型動画における「カットの長さやカット割の数、つなぎ方」はどのように意識すれば良いのでしょうか?
柳:
どうしても縦型はカットが長く感じやすいので、『つながりたくて、嘘をつく』ではカット割を早くする意識をしていました。長く見せるところは討論しているシーンと、要所要所だけです。ですが、亀山さんのように、逆に長く見せるというのは、面白いなと思ってます。
亀山:
やはり縦は横より長く感じますよね。画面が小さく手のひらの中で見ているからこそ、リズム感を大切にしないといけないということが、縦型動画のセオリーとして存在すると思います。
横の方が長くても見れるのは、画面が大きいから情報量が多いのだと思います。早く変わってしまうと情報が脳で処理しきれないのだと思います。スマホサイズだと一瞬で全画面見れるので、すぐカットが変わらないと、逆に情報量が薄く見えちゃってテンポが合わないんだと思います。
美術館にあるような、壁一面に大きく描かれてる絵画は、一瞬で見て次の部屋に行こうとならないじゃないですか。おそらくそれと同じ感覚なんだと思います。
もともとスマホの出現によって、「スマホファーストの映像」という新しいニーズが生まれました。そのため、スマホ視聴に特化した表現というものは元からあるわけではありません。それでは「スマホファーストの映像」というのは、どういったものになるのでしょうか?
柳:
悪い意味ではない「スナック菓子的に作ろう」という感覚ですね。スナック菓子はサクッと食べられて、一度食べはじめたらどんどん食べたくなりますよね。「ちょっと刺激が強いけど、軽くて楽しかったり、無意識に手が伸びてすぐ次に行ってしまう」ような感覚だと思います。
柳:
最近はそこまでスナック菓子を意識して撮ろうとは思わないんですが、おそらく理想形はスナック菓子的なものだと思っています。
亀山:
個人的には、ながらで見ていたのに気付いたら没入しているような作品を作れるように意識していました。
縦である分、バストショットを長めに撮るのであれば、服のコーディネートなんかも没入感を生む大切な要素になってくると思います。足元までしっかりと作り込んでおかないと、全部見えてバレてしまいますし。なので、人物や背景はもちろん、どういう風に綺麗なセットを作るかを事前に考えた方がいいと思います。より計画性が大事になるのです。
以上が、今回のウェビナーで解説していただいた縦型動画のポイントです。
お二人は共に、撮影時にたくさんの試行錯誤を重ねてこだわりを表現していく反面、「計画性が大切」ともおっしゃられていました。これまでの常識が通用しない縦型動画だからこそ、計画をたてつつ臨機応変に試行錯誤を重ねる必要があるのでしょう。
新しい挑戦として、ぜひ皆さんも「縦型動画」の制作をしてみてはいかがでしょうか。
▼こちらから縦型動画にまつわるウェビナーまとめ記事が一気にご覧いただけます。
https://vook.vc/list/26
現在、ニコンイメージングジャパンとVookでは、映像クリエイターへの様々な支援を通してNikon Z シリーズの魅力と共に、クリエイターが作品を作りたくなるコンテンツを発信する、『Z to Go -Creators in the field-』を実施中です。
その集大成として動画アワード
『-Nikon Presents- Vertical Movie Award 2022』 を開催しています。
本アワードでは、みなさまのこだわりの縦型動画作品を募集し、"縦型動画の代名詞"となる作品を決定します。
https://vook.vc/c/nikon-vertical-movie-award/
ふるってご応募下さい。
第1回目のウェビナーもまとめ記事でお楽しみいただけます!
【ウェビナーまとめ記事】『EVEN』制作チームが語る “縦型動画”の魅力とセオリー
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