映像クリエイター自ら 「プロデュース業務」 を行うケースが増えてきてはいませんか?“良いプロデューサーとは?” という知見やノウハウはあまり体系化されておらず、経験のない方にとっては、手探りでやり方を模索するしかないのが悩みの種ではないでしょうか。
そこでVookでは 「プロデュース力」 をテーマに、スムーズに企画を形にするための3つの力 にまつわるウェビナーを開催。第1弾として、映像制作の羅針盤とも言える「企画書」篇を2月10日に開催いたしました。
講師は野外映画フェス「夜空と交差する森の映画祭」代表のサトウダイスケさんです。
- クリエイティブ・ディレクター & クリエイターサトウ ダイスケ / Daisuke Sato
クリエイティブ・ディレクター & クリエイター。映像制作をメインとしつつ分野を跨いだクリエイティブで、ものづくりをしています。現場大好きで、守備範囲広めです。2014年より、野外映画フェス「夜空と交差する森の映画祭」の代表、2020年より埼玉県飯能市の北欧体験アウトドア視線「ノーラ名栗」のクリエイティブ・ディレクターを担当しています。
「プロデュース力 3つのヒント - チーム作り編 -」も記事でお楽しみいただけます!
【ウェビナーまとめ記事】また仕事がしたくなる!チームを導くプロデュース力 3つのヒント - チーム作り編 -
映像クリエイターとして仕事をしている中で、自らプロデュース業務を担うケースや、プロジェクトの規模が大きくなって「1人では捌ききれない」と感じたことはありませんか?そんな時こそ、チーム作りが大きな...
ウェビナーの様子はこちらから動画でもご覧頂くことが出来ます!
企画をつくる
企画で人々の心を動かすためには、その企画の意図が明確である必要があります。ここでは企画をつくるために必要な「コンセプト」の扱い方を解説します。
企画を立ち上げるうえでもっとも大切なのが「コンセプト」。イベントやゲーム制作などと同じく、映像でも「コンセプト」が非常に大切だと思っています。
コンセプトとは
「コンセプト」という言葉の意味は、辞書では次のように記されています。
コンセプト
1.概念。
2.企画・広告などで、全体を貫く基本的な観点・考え方。
引用:Oxford Languages
高校の文化祭などでも「輝き」のようなイベント全体に共通したコンセプトが掲げられるケースは多いでしょう。一方で、ただコンセプトがひとつあるだけでは作品全体の統一感に繋がらないケースも少なくありません。
今回は、企画を作るうえでコンセプトをしっかり役に立つものにする方法についてお伝えします。
私なりの考え方ですが、コンセプトとは「コンパスの針(原点)に置かれる概念」だと思っています。コンセプトを中心として、コンパスで描いた円がコンセプトの意味領域と考えてください。
例えばコンセプトを「ぼうけん」としましょう。「ぼうけん」という言葉だけだと、なんとなくの形だけで終わってしまいそうなので、ここから「ぼうけん」の中に含まれるワードを考えていきます。「ぼうけん」というキーワードの解像度を上げていき、「ぼうけん」の中にあるもの連想していきます。
「ぼうけん」からは「旅」「危険」「勇者」「新たな発見」といったワードが出てきますね。そして連想されたワードをコンパスで描いた円の中に配置し、この企画においての「ぼうけん」とは何を意味するのかを明確にしていきます。
このワード連想は、ぜひチームでアイスブレイクを兼ねて出し合うといいと思います。ディレクターのようなポジションの人が、みんなで出し合ったアイディアを配置していくことで、全員が企画の芯から参画している気分になれますし、同じ方向を向いていくための動機付けになります。
コンセプトの決め方
コンセプトとなるキーワードは、広い解釈をしやすい言葉を選ぶことが重要です。コンセプトからみんなでワードを連想していく際に、解釈の幅が広い言葉であるほど、キーワードの解像度を上げるブレイクダウンの作業がしやすくなるためです。
「ぼうけん」をブレイクダウンしていった結果「旅」「未知の世界」「映画/ドラマ」といったワードが連想できたとします。これらのワードはそれぞれ、コンパスで描いたコンセプトの意味領域の円の中の、さらに小さなエリア内のコンセプトとなります。
そしてさらにブレイクダウンを進めることで、大きな「ぼうけん」というコンセプトに繋がる階層を作り、コンテンツの形をイメージしやすくしていきます。
アイディアの出し方
アイディアを出す際にルールとしておきたい点は3つあります。
アイディアを出す際のルール
1. アイディアの方向性を定めておく
2. なるべく自由に、広い視野で考える
3. いきなりゴールを目指さない
方向性は、先ほどの例における「ぼうけん」があたります。「ぼうけんに関係するもの」というルールを設けておけば、自由に意見を出していっても全く見当外れといったものは出にくいと思います。ここで決める方向性がイベント全体の指針になりますので、非常に重要な存在です。
次にアイディアをブレストする際の大前提として、否定をしてはいけません。「予算的に無理だよね」「現実的に難しいよね」というような否定を許してしまうと、出てくるアイディアが狭く面白みのないものにまとまってしまいます。
また、アイディア出しではいきなりゴールを目指さないこと。企業さんとお話をしている中で「今日結論を出そう」という話も出てきますが、なるべく回数を重ねてアイディアを膨らませ、最終的な段階で引き算しながらアイディアを絞っていくことが大切だと思います。
私はアイディア出しを「ジェンガ」のようなものと考えています。
まずジェンガのブロックを積み上げていき、最終的にはブロックを抜いて絞っていきます。しかし何でも抜けばいいという話ではありません。企画の芯が倒れないように、これは抜いてもいいのか、残した方がいいのかと考えて抜く。この引き算を繰り返した結果、最終的にジェンガのタワーが倒れずに残ったものを見ると、スリムでシンプルなものに仕上がっているはずです。
一般的に「シンプルを目指すには、シンプルを目指してはいけない」という言葉があります。シンプルとは、引き算をした最終的な結果だから洗練されているのだと思います。
「コンセプト」の事例
ではここで実際にコンセプト作りの事例を見ていただきたいと思います。
◆事例①:野外映画フェス「夜空と交差する森の映画祭」グランドコンセプト
2014年に私が立ち上げたイベントです。野外に設置した複数のスクリーンで映画を夜通し楽しめる「野外映画フェス」として開催しています。
毎年コンセプトは変えていますが、グランドコンセプトは一貫して「映画鑑賞から映画体験へ。」に定めています。「〇〇体験」という言葉は、近年では気軽に使われていますが、その一方で「言ったら気持ちよくなるワード」になってしまっていると感じています。そこでこのイベントでは「何をもって映画”体験”とするのか」というテーマを突き詰めています。4DXにすればいいのか、他の要素が必要なのか。体験のあり方を明確にするために、もう一段ブレイクダウンする必要がありました。
その結果見えたのが「拡張」「文脈」「共有」という3つのキーワードです。
「拡張」は、映画はスマホで自宅でも見られますが、その画面の外に何を拡張できるかといった点を考えました。例えば、過去に「ザ・ウォーク」という綱渡りの映画を放映した際には、すごく長い吊り橋を渡ってからその映画を見る体験をしてもらっています。その体験を経ることで、過去に観たことがある人は映画への没入感を上げ、初めての人も帰りに吊り橋を渡りながら「そういうことだったのか」と理解してもらえるという仕掛けになっています。
「文脈」は、イベントをその場だけの体験にしないという取り組みです。2017年には島でイベントを行ったんですが、島に向かう港で渡したパンフレットを船の中で開くと、その中に船に乗る描写があるんです。ただ移動手段として船に乗るのではなく、自分が登場人物の一人になるような没入感、「イマーシブ性」に深く訴えるように設計しています。
「共有」は、時間を超えた未来の自分との共有をしてほしいという思いを込めています。パンフレットは、イベント後も捨てようと思われないものを作ろうという思いから、非常に作り込んだものになっています。これは、その日限りで消費されるのではなく、本棚にあるパンフレットを手に取って10年後も思い出してもらえるようなイベントにしたいという狙いがあります。あの一夜を思い出すきっかけとなるトリガーの役割を仕込むことを目的として、特別感のあるパンフレットにしています。
◆事例②:2019年開催分 「夜空と交差する森の映画祭」イベントコンセプト
2019年に開催したイベントは「いつのまにか」というコンセプトで行いました。私たちは世界を彩る言葉という意味で、コンセプトを「世界観」と呼んでいます。この世界観はイベント全体の指針であり、何かあったときに立ち返るべき中心点となる存在です。
この世界観をさらに言語化し、キャッチコピーやストーリーに落とし込むブレイクダウンを繰り返し、みんなが思う「いつのまにか」を定めていきました。
さらに、この年は「絵本」を題材にするという方針とし、それぞれの上映エリアに絵本のような名前をつけました。絵本に至った過程が見えないのでわかりにくいかもしれませんが、これらも「いつのまにか」から広げていった先にあった名前です。
上映する映画も、「いつのまにか」とエリアのテーマに合わせたタイトルを選んでいます。「きみに読む物語」や「インターステラー」などを上映しましたが、「インターステラー」などは、知っている人からすると「いつのまにか」感が強いんじゃないでしょうか。
美術面でも、世界観に準じた仕掛けを入れています。今回は「くろねこから手紙が届いた」というストーリー仕立てのイベントでしたので、受付でパンフレットを受け取って終わりではなく、郵便受けを開いてパンフレットを受け取ってもらうというワンアクションを加えています。この一手間によって、お客さんのイマーシブ性、没入感がさらに高められました。
また受付から会場まで歩いて行ってもらう道の文脈も楽しんでほしいと思っています。お祭りをテーマにしたエリアに向かうと祭り囃子の音が聞こえてくるような演出で、徐々に気持ちが盛り上がる過程も大切にしています。
企画をみせる
優れた企画は世に出て初めて人々の心を動かします。ここでは、企画を認めてもらうために必要な企画書の作り方についてご紹介します。
企画を提案する段階は大きく分けて2つあり、それぞれで必要な企画書は変わってきます。
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