プロの映像クリエイターのインタビューをもとに、そのナレッジやノウハウを紹介していく「Cutters Point」。今回のゲストは、CGアーティストのKazuyaさんです。
長引くコロナ禍の中、偶然のきっかけで17歳からBlenderを始めたというKazuyaさん。その後わずか1年ほどの間に独学でスキルを磨き、まるで実写のようなフォトリアルCG作品を戦略的にSNSに投稿。今日ではプロとして活躍する傍ら、ハイクオリティなアセット でも多くの支持を集めています。
今回のインタビューでは、KazuyaさんのおすすめするBlenderチュートリアルに加え、2つの自主作品について制作のTipsを教えていただきました。
ゲスト:Kazuyaさん
3DCGアーティスト。フォトリアルな作風が特徴。17歳からBlenderで制作を始め、わずか1年でプロクリエイターに。現在は株式Awwに所属し、制作を続けている。
YouTube
インタビュアー:ダストマン
3年間勤めていた映像プロダクションを退職し田舎へと移住。広島を拠点に、TVやWebのCMをメインにエフェクト・モーショングラフィックス・VFX・コンポジット業務をフリーランスで請け負いながら、After Effectsのチュートリアル動画を主に発信しているYouTubeチャンネル『ダストマンTips』を運営。
Blenderとの偶然の出会い
ダストマン:Kazuyaさんが、どのような経緯で映像やCGを始められたのかというところからお聞きしたいのですが、何歳頃から興味を?
Kazuya:17歳のときですね。ちょうど1年半前ぐらいでコロナ禍だったので、学校の授業もリモートになったりして、家でYouTubeをだらだら見て過ごしていたんです。そのときにたまたま、Tomさんという有名な方のチュートリアル動画が流れてきて。それがBlenderを始めるきっかけになりました。
ダストマン:なるほど、最初からクリエイティブに興味があったわけではなかったと。
Kazuya:ほんとに偶然の出会いでした。僕が見たのは、Tomさんの「リアルな小物の作り方」というチュートリアル で、「ラクちん」と書いてあったので、ちょっとやってみようかな、というくらいの気持ちでした。
ダストマン:暇だしみたいな(笑)
Kazuya:そうそう(笑)。それで「こんなに簡単にできるんだ」、いろいろ作ってみようと思ったのがきっかけですね。3DCGって僕の中ではぼわっとしたイメージでしたが、手を動かしながら、それが鮮明になるのを感じました。
面白くて、Tomさんのチュートリアルは全部見ました。始めてから最初1~2カ月ぐらいは、さらにおすすめで流れてくるチュートリアルをいくつも試したりしていましたね。
ダストマン:何か特定のものや作品を作りたいというよりは、純粋に3DCGが楽しくてゲーム感覚で続けていた感じですかね。
Kazuya:小さい頃から工作が好きで、よく段ボールや厚紙を使って何かを作っていたんです。その延長のような感覚で、しかも無限の素材と空間があって、作り続けられることに惹かれたのかなと思います。
ダストマン:ソフトのBlenderは無料ですし。
Kazuya:いつまでもできちゃうんですよね。プログラミングの練習で少しいじっていたPCを放置気味にしていたんですけど、Blenderでまた使い始めるようになりました。
Blender
https://blender.jp/
SNSに作品を投稿する意味
ダストマン:Kazuyaさんの場合、フォトリアルだったり、SFっぽい作品が多いですよね。いろんなチュートリアルを試すなかで、そういう雰囲気にピンときたんでしょうか?
Kazuya:ピンときたというよりは、自分が作りたいもの作ってSNSで見てもらうことを考えたときに、やはり見てもらう準備をしておかなきゃというのがいちばん大きかったです。
フォトリアルにしても、CGでここまでできることを知らない人がたくさんいるだろうから、それで一つ大きな反響を呼べるんじゃないかと思ってやってみた感じです。
ダストマン:Tomさんや他のチュートリアルを見てBlenderを触り始め、どれくらいしてSNSで作品を発信するようになったんですか?
Kazuya:Blenderを始めてから3カ月ぐらいのタイミングですね。その頃にTwitterで応援してくれる方や、同じようにBlenderを始めたばかりの人とつながるようになったんです。
ただ、自分の作品をアップしてもなかなか反応は伸びなくて、好きなものを作るだけじゃなく、どうやって伸ばせばいいのか考えていました。
ダストマン:伸びるきっかけになった作品はありましたか?
Kazuya:多分、特定の作品というのはないですよ。ハイペースでBlenderで創作を続けている人が当時はあまりいなかったので、そういう意味でペースが重要だったのかなとは思います。
僕、暇でずっと作ってたから(笑)。例えば1つの作品に1万いいねがついたとしても、そのあと半年投稿が止まったら、それ以上は伸びなくなってしまう。なので、毎日継続的に何かしら上げていたおかげかなという印象ですね。
ダストマン:SNSに関して、割と戦略を立てて取り組まれていたんですね。
Kazuya:伸びなくなったときに戦略を立てて考えることが、どうすれば魅力的な作品が生まれるかというところにどんどんつながっていったと思います。SNSで何かを発信して評価される機会は、僕にとって大事だったというか、今につながっているなと感じていますね。
ダストマン:Kazuyaさんは、今18歳ですよね。自分の作品を誰かに届けたり、それを最終的に職業にしたいと考えていたりする人って、同世代でも多いと思いますか?
Kazuya:界隈を見ると20代前半や高校生のような若い人が結構多いので、そういう人はいらっしゃると思います。
ダストマン:Kazuyaさん自身は、同世代の存在をどう見ているんですか。純粋に、ライバルとして?
Kazuya:基本的に僕は自分がどれだけできてるかを注視しているので、周りの誰が伸びてようと伸びていまいと、あまり気になりません。人それぞれ違うことをしていて、僕ができないことしている人を見つけたらすごく勉強になるし、正直みんなすごいというか、ライバル視する感覚はないですね。
結局自分が満足できるものを上げられないと、僕の中ではあまり意味がなくて。なので、納得いくまでいろんなもの参考にしながらできた方が面白いなって感じるタイプです。
ダストマン:Blenderを使った作品作りを仕事にしようとか、もしくは仕事として依頼されるようになったきっかけは何かありましたか?
Kazuya:お金を稼ぎたいとは思っていたので、「ココナラ 」という副業系のプラットフォームに登録してみました。
CGモデリングの需要が意外とあったので続けてもよかったのですが、TwitterのDMとかでお仕事をもらえるようになってからは離れちゃいました。
タイミング的には、Twitterのフォロワーが1,000人ぐらいになってからなので、半年から1年前くらいですね。株式会社Aww というバーチャルヒューマンを作っている会社でインターンを始めて、そのまま就職して今に至ります。
ダストマン:この1年で、一気に変化がありましたね。
Kazuya:そうですね。生活も考え方も、いろんなことが大きく変わりました。
独学者必見!Blenderおすすめチュートリアル
ダストマン:KazuyaさんがBlenderを学んできたなかで、特に好きなチュートリアルがあれば教えていただきたいです。
Kazuya:やはり、まずはイアン・ヒューバート ですね。「Lazy Tutorials 」というシリーズが全部良くて、中でも僕が好きなのはカモのシーンを作る動画ですね。一瞬で出来上がるんですよ。
ダストマン:ほんとだ、早っ!
Kazuya:横向きのカモの画像から一発でテクスチャを作っちゃうのが面白いですね。この1枚だけで全部完結させるところとか、すごく参考になります。あまり寄りのシーンじゃないから、それでOKなんですよね。
ダストマン:イアンの「こういうシーンならこれくらいで十分だよ」みたいな発想や、素材の使い方、CG全体を軽くする手法といった部分が本当に素晴らしいと、いろんな人から聞きますね。
Kazuya:そうなんです。それで、彼の1つ1つのチュートリアルのシーンが積み重なったのが、『DYNAMO DREAM 』という短編映像。こんなにすごい作品が出来上がるんだから、僕たちにとっても「これでいいんだな」という希望になりますね。これに救われている人は、本当に多いと思います。
ダストマン:Blender界隈では神的存在なんですね。彼のチュートリアルの再生回数を見ると、特定のソフトウェアの特定のテクニックなのに、すさまじい伸び方をしているじゃないですか。
Kazuya:この1分のチュートリアル動画をそのまま上げただけで、Twitterで何万いいねとかを彼は連発してて。チュートリアルで集客して自分の作品見てもらうという手法も賢いと思うし、参考になります。
ダストマン:Patreon ※の数、5,600人もいるみたいですね。Kazuyaさんもその1人ですか?
Pateron:月額制のアーティスト支援プラットフォーム。支援額によってファンが受け取れるリワードが変わる。
Kazuya:もちろん、序盤に入りましたよ。本当に安すぎるくらいです…!
ダストマン:Blenderの基礎的なパートを習得した人は、イアンの英語のチュートリアルを見て、彼のパトロンになって、自分でいろいろやってみるというのが王道かもしれませんね。
Kazuya:僕の中では王道ですし、そうしている人も多いんじゃないかなと思いますね。
Kazuya:それから、ドーナツを使ったBlender Guru のチュートリアルもおすすめです。本名はアンドリュー・プライス という方でして、Blenderのテクニックに加えて、ライティングやカラーリングをうまく見せる方法 を解説したりもしています。
ダストマン:シーンをより魅力的に見せるための知識や手法といった部分ですね。
Kazuya:彼が比較的最近に上げた動画で、『The Last of Us Part II』というゲーム作品のある種2次創作的なものの解説 も、めちゃくちゃいいですね。
このチュートリアルのすごいところといえば、普通だとペイントをするときに白黒で係数ペイントしますけど、彼はRGB分離を使って赤と青と緑で同じテクスチャに3回ペイントして、それぞれ係数を3つで割っているんですね。なので、通常は1回のところを3回分ペイントするという、テクニック的にすさまじいことをしている動画なんです。
ダストマン:目から鱗が落ちるチュートリアルなんですね。聞いていて面白いです。
Kazuya:グレーブ・アレクサンドロフの草原を作るチュートリアルもいいですよ。超有名人というわけではないかもしれませんが、Blenderの使い手として7~8年前ぐらいから知られている方です。
Blenderでマテリアルを作るときって、Principled BSDF というものがプリセットで出てくるんですね。これは双方向拡散型関数という、いろんなパラメータを一度に1つのノードで制御できる万能なツールです。
でも、このチュートリアルはまだPrincipled BSDFがなかった時代のもので、たくさん別のシェーダーを組み合わせて、関数をノードで組んでいます。パラメータがいっぱい入ってるところから必要なものだけを抜き出すイメージで作っている感じですね。
ダストマン:いわばHoudini のような作り方でしょうか。
Kazuya:確かに似ていますね。BlenderではPrincipledの中は入れなくて、そこから関数いじることはできません。できるのはパラメータを触ることくらいですが、彼のやり方は効率化、取捨選択にすごく役立つと思います。
ダストマン:逆に言うと、同じようにしてBlenderで草原を作った後にこのチュートリアル見ると、中の仕組みがどうなっているのかが深く理解できそう。
Kazuya:こうして作れば、質感であったり、ここでカバーできたり、というところも分かります。
ダストマン:因数分解しながら学べる感じですね。
Kazuya:最後に、Bad Normals というチャンネルも最近のおすすめですね。シミュレーション使わずにノードだけでトルネードを作るチュートリアル があって、すごく参考になります。
ダストマン:シミュレーション使うとかなり重くなりますが、やはりノードの方が制御しやすいですか?
Kazuya:Blenderのシミュレーションは、基本的に弱いんですよ。物理シミュレーションだけで簡単なことしかできないし、エラーもよく起きます。なので、例えばHoudiniに比べて弱い部分をジオメトリーノードとかでカバーしたりして。
ダストマン:Blenderでゴリ押しして作っているということですね。
Kazuya:まさにゴリ押し。でも、こういうやり方もアリですよね。この人のチュートリアルはどれも分かりやすいと思います。
ダストマン:なるほど、全体的にBlenderの最新テクニックを教えてくれる人、といった位置づけですかね。
Kazuya:全部を踏まえて教えてくれます。
ダストマン:ちなみに、これからBlenderを始めたい人に向けて、日本語でのおすすめもありますか?
Kazuya:もうTomさんのチュートリアル を見ていれば、基本大丈夫でしょうね(笑)。
ダストマン:Tomさん最強(笑)。まずはTomさんのチュートリアルを一通り見て学んで、あとはそれぞれの好みに合わせて開拓していくのが良さそう。
Kazuya:Tomさんの動画は本当に分かりやすいので、みんなチャンネル登録しましょう(笑)
Tom Studio
https://www.youtube.com/channel/UCYw2EiB2tSnI7lXq6juL78w
作品メイキング① 疾走するバイク
プロトタイプのバイクでアウトバーン(速度無制限道路)を疾走する動画。#blender#b3d#3DCG pic.twitter.com/XmkE3fGRKy
— Kazuya🍙 (@adanaxxx) <a href="https://twitter.com/adanaxxx/status/1486256213335879681?ref_src=twsrc%5Etfw">January 26, 2022
ダストマン:では本題ということで、Kazuyaさんの作品のメイキングについて教えていただきたいと思います。バイクの作品からお願いできますか?
Kazuya:はい。これに関しては、大きく分けて3つのTipsがあります。スピード感、背景、あとはこれだけ長い道路をいかにランダムに見せるかというところですね。
まずはスピード感の演出。見せ方にかなり苦労しましたが、寄りですぐ目の前を通り過ぎていくオブジェクトと背景や遠くにあるオブジェクトを対比的に用いることで、動きの速さを演出しました。
ダストマン:遠景は、カメラの動きに合わせて写真を良さげなところに置いている感じですかね。
Kazuya:そうです。この遠景は面白いことになっていて、画像を係数に分解して真っ黒と透明なマテリアルに分けています。すると、遠くから見たときにシルエットだけが浮かび上がるんです。わざわざキューブ置くのも面倒なので、画像使うことでリアルさを増しつつ手間を削減しました。
あと、ボリュームが全体にかかっていて、それを下から照らすようにエリアライト置いています。
街の遠景は光が空気で拡散されてボワンとした感じになるので、ボリュームの下からエリアライト当てるだけでもリアルになるんですよね。


さらに、光っているところに黒いシルエットのようなオブジェクトがあると、ちゃんとビルがあるように見えます。

加えて、ビルのライトみたいなのも画像で入れています。これは夜景の画像素材から、係数で黒いところを透明のマテリアルに変換して、白いところだけを光らせて作っています。
ダストマン:パーティクルみたいに置いてるんですね。
Kazuya:1枚の画像から置いています。本当はもっと近づけるといいんですけど。
ダストマン:でも、そういう奥行きがあるから、よりスピード感が出る。
Kazuya:そうですね。奥はもう全部ペラペラで、上から見ると何もありません。そこは作らなくて大丈夫なので。
ダストマン:カメラの位置を考慮すると、奥は作り込まなくても十分に成立していますね。あと、広角なのもいいですね。
Kazuya:望遠だとどうしても大きく見えてしまうので、今回は寄り添う感じにしました。
ダストマン:迫力も増していると思います。
Kazuya:スピード感の部分では、マントの演出も結構苦労したポイントでして、クロスシミュレーションを使ってなびかせるようにしました。
ダストマン:本当に、すさまじいスピードではためいてますよね。
Kazuya:はい。あと、道路の単調さをいかに回避するかに関してですが、実はかなりライティングでごまかしています。テクスチャをずらしたり変えたりするのは結構面倒なのですが、赤や白のエリアライトを当てることで、一本道でも違った見え方になるんですよね。


そこにフォトグラメトリでスキャンしたエンジンなどを小分けにして置いたりして、機械的なディテールもプラスしています。
ダストマン:フォトグラメトリはiPhoneでやっているんですか?
Kazuya:iPhoneのPolycam というアプリを使っています。街を歩いていて、気になるものあったらパシャパシャと。
ダストマン:街角スナップみたいなノリで撮影しているんですね。
Kazuya:シャッター音を鳴らして歩いてる奴がいたら僕ですね(笑)。これは 、僕が通っていた学校にあったものです。恐らく換気扇かな。
フォトグラメトリで作って、要らない部分カットして面の数を最低限まで減らしたり、足りない部分を面張りしたりして整えました。
ダストマン:かなり工作なさって、そうして道路の単調さを回避しているんですね。
Kazuya:もう1つ、フォトグラメトリで若干ミスったけど、結果的に良くなったという部分もありました。
新幹線の下の柱をスキャンしたときに、少しはみ出しちゃっていたことに気付いていなかったんです。でも、逆にアスファルトを補修した感じが出て、カッコよくなったかなと思っています。
他にも例えば高速道路によくある防音の壁とか、そうした小物を並べると別の道に見えて単調になりづらいですね。
ダストマン:バラバラに1つずつ置いていくことで、整っていないディストピア感も感じられます。ちなみに、バイクはKazuyaさんがモデリングされたんですよね。
Kazuya:そうです。人物はMixamo というところから持ってきましたが、バイクは自分で作っていて、これもフォトグラメトリのパーツを結構雑に組み合わせてそれらしく仕上げた感じです。
ダストマン:なるほど。でも、シーンによって作り込みの程度を変えているのは、先ほどのイアンの手法に通じるものがありますね。
Kazuya:それはあると思います。半年ほど前の作品なので、今だとまた違う作り方をするかもしれませんが、これも1つのやり方として紹介させてもらいます。
作品メイキング② リアルを突き詰めたゲームセンター
Game Center #b3d pic.twitter.com/qEpO8PTRrc
— Kazuya🍙 (@adanaxxx) <a href="https://twitter.com/adanaxxx/status/1480102547600064515?ref_src=twsrc%5Etfw">January 9, 2022
ダストマン:ゲームセンターの作品についても、いろいろ聞かせてください!そもそものきっかけは?
Kazuya:ゲーセンに行ったんですよ。それで、ゲーセン作ろうと思って(笑)
ダストマン:脊髄反射的に(笑)。SNSでかなり伸びている作品ですが、反響は予想していましたか?
Kazuya:これはもう、文面も含めて完全に伸ばしにいきましたね。「Blenderでゲームセンターを作りました、3DCGです」って。「これCGなの?」という反応を狙いました。
ダストマン:ゲームセンターに行って、参考資料的に写真を撮って帰ってきた感じですか。
Kazuya:いや、それがほとんど撮らずに帰ってきてしまって、後から後悔して。だからUFOキャッチャーについて調べたのですが、大手メーカーからいろんな機種が出ているんですよね。
この映像を投稿した後、UFOキャッチャーガチ勢の方から「こんなUFOキャッチャーは存在しない」「夢のコラボデザインですね」みたいなコメントももらいました。実際に複数の機種を参考にしたから、そうなったんですけど。
ダストマン:気になっちゃうんでしょうね(笑)。中のぬいぐるみもかなり種類がありますが、画像ですか?
Kazuya:スキャンとモデリングです。リラックマはフォトグラメトリで、ぬいぐるみの他にパソコンのマザーボードの箱がUFOキャッチャーにあったら面白いかなと思って入れてみたりしました。
あと、見つけたらラッキーということで両替機のところにお金が落ちているんですけど、誰にも気づいてもらえてないです(笑)
ダストマン:よく見ると、いろんな遊び要素があるんですね。
Kazuya:この作品のTipsですが、画角に映らない周りの部分にゲーセンの画像を置いています。どこかに映り込むかもしれないので、色を合わせた画像を置いておくと反射がリアルになりますね。
ダストマン:なるほど、反射物だらけだから。
Kazuya:あと、ライティングで結構なうそをついているんですよ。青や赤のスポットライトを置いて、それを天井に映り込ませることで、「映像で見えていないところにもゲーム機があって、それが光っているんだろうな」と思わせる演出です。
ダストマン:空間の広がりができますね。そういうアイデアは経験の中で培ってきたものなのか、それともふと思いつく感じですか?
Kazuya:「見えないところはこれで大丈夫じゃないか」といった塩梅を探ってきた経験があるので、それが大きいのかもしれません。
特に最初の頃は、イアンのチュートリアルを見て自分でいろいろ試して、どんどん軽いシーン作っていました。当時はあまりパワーのあるPCではなかったので、「ここも削減しよう」というのを繰り返してきた結果ですね。
ダストマン:フォトグラメトリとポリゴンリダクションを活用しつつ、いかに画像で乗り切るかを考えていたら、いろんな削減スキルが身についたかたちですかね。
Kazuya:はい。それから、形状の正しさを意識して想像で作らないようにすることも、本当に大事だと思っています。なので、必ず現実に存在しているものを確認してから作りますね。
この作品で言うと、非常口の場所を示す非常口看板 と非常口そのものについている看板は、緑と白の配色が実際は異なるんです。だから逆の看板のテクスチャを入れると、違和感につながってしまいます。
形状の正しさ、あとリアルさもそうですが、それは絶対に守っておくべきところですね。
ダストマン:それに絡んで、Kazuyaさんのようなリアルなもの好きの人におすすめしたい本があります。『街角図鑑 』という本なのですが、例えばパイロンや工事現場のものとか、どんな種類があって、どこのメーカーがどれぐらいのシェアを持っているかといったことが、全部載っているんですよ。
画像出典:Amazon
Kazuya:最高ですね!僕も電柱の図鑑を持っていますけど、この類の本は大好きです。やはり写真を撮ったり資料を使ったりする方が、それを見ながらそのまま作り込んでいけるので楽ですし、リアルさが出ると思います。
ダストマン:ゲームセンターの床のタイルの反射とかも、リファレンス画像を見て反射具合を調整なさったんですか?
Kazuya:こういうタイルは人が踏むし、それほど固いものでもないので、大抵歪んでいるんですね。どれだけ歪ませるとそれらしくなるか、マスグレイブテクスチャ で入念に検証しました。この歪ませ方も、イアンのLazy Tutorialsで紹介されていたものです。
歪みを作ることはここに限らず大切で、ゲーセンの機械も実は歪んでいて、配置もきれいに並べずにZ軸を若干回転させて斜めにしています。あと、カメラもまっすぐではなく少しだけずらして、手で撮影した感じをリアルに演出しました。
説得力という意味では、ゲーセンの写真を調べたときに出てきたこの配線カバーもそうですね。ゲーセンなのにケーブルがないのはおかしいからケーブルを置いて、ケーブルがあって引っかかるのに何もないのはおかしいからケーブルカバーを置いて。
自分がこの場にいたら何をするか、どう感じるかといった、人間の心理的な部分を考えて作るのが大事。特に、時間を感じさせるものや、人の手が触れたことを感じさせるものを置くと、リアルさが増しますね。
ワクワクする映像の条件をフィルター化
ダストマン:ゲームセンターの作品はSNSでの反響を狙ったというお話でしたが、世間受けしそうなものを作ることと、あまり評価に関係なく自分の好きなものを作ることと、どちらを優先させるタイプですか?
Kazuya:そこはすごく悩むところですね。でも最近は、作りたいものと世間一般で受けるものを両立させるためのフィルターを、自分の中に作るようにしています。僕の映像に対する考え方ですが、「ワクワクする映像には条件がある」という仮説を立てたんですよ。その条件を探しながら作ったのが、バイクの作品です。
例えば、たくさんの映画でカーチェイスのシーンが使われているじゃないですか。それがどうしてなのかを考え、カーチェイスのシーンの何が人間の脳みそ興奮を与えてるのか、シーンの要素を分解するんですね。
そうしていろんなシーンの要素や、自分が日常的に見たものや感じることを掛け合わせていって残るもの、どんな映像が世の中で魅力的に見えるのかをフィルタリングしていきます。
スピード感があったり、確実に視線誘導ができていたり、他にも理由はいくつもありますが、それをフィルター化して、自分の作品がそのフィルターをクリアできたら投稿することにしています。
ダストマン:自主制作でボツにする作品もあると伺いましたが、Kazuyaさんの中でそういうチェック項目があって、ベースとなる理論を構築なさっている途中なのですね。
Kazuya:そうですね、全ての作品が僕の中のフィルターを通ってからTwitterに出荷されます。フィルターの要素を満たせば数字を狙うことはできるので、自分の好きなものを作れると考えています。
でも、フィルター自体が日々アップデートされているので、それをクリアできる作品が絞られて制作スピードは落ちていますね。
ダストマン:だんだん目も肥えて、作ることに関しての練度も上がってくるから、自分に厳しくなっていきますよね。
Kazuya:創作をしている人は、誰しもそうだと思いますね。僕自身、自分の技術や作品のクオリティが止まることにすごく敏感で、最近はフォロワーさんの期待を裏切るかたちになってしまって。「もうちょっと待ってください」と言いながら、頑張っているところです。
これから伸びるコンテンツ「1本の映画」を目指して
ダストマン:今後、Kazuyaさんが特にやりたいことや目指したい何かはありますか?
Kazuya:今まさに進めていることがあります。1本の映画のような作品を作りたいと思っていて、ストーリーと脚本は完成しました。あとはシーンを作っていくだけなのですが、自分の中のフィルターをクリアするのに時間がかかっています。
僕個人の考えですが、これからもっと僕らみたいな創作者は増えて、文脈のない単発の作品がSNSにも無限に出てくると思います。
それが普通になると作品を上げても伸びなくなりますし、じゃあどんなコンテンツがトップになるかというと、ストーリーとキャラクターと世界観の3つが揃っていることが、きっと最低条件になるんですよね。
キャラがいて、キャラに付随するストーリーがあって、ストーリーが展開されてる世界観があると、共感されやすいし広がりやすい。受け入れられやすいコンテンツの形として伸びていくと予想しています。
これを個人単位でできる世の中はもう来ているので、誰もが作るようになる前に自ら作っていくというのが、僕が今していることであり、やりたいことですね。
ただ、今はショートのコンテンツが流行っていて、僕がTwitterに上げる動画も以前より短めにすることを意識しています。切り抜きというわけではありませんが、そうした短い作品を作りながら、フォロワーの皆さんをいい意味で焦らしている感じです。
ダストマン:イアンも単発のチュートリアルを上げているのかと思いきや、最後には『DYNAMO DREAM』という1本の作品になりましたもんね。かなり衝撃でした。
Kazuya:あれは本当に理想的なやり方で、僕もそういうことができたらいいなと思っています。時間はかかりますが、楽しみにしていただけると嬉しいです。
ダストマン:なるほど、楽しみにしています!
KazuyaさんのPCスペックはこちら
MacBook Pro
CPU:M1Max 10コア
GPU:32コア
メモリ:64GB
Windows
CPU:Ryzen9 5950x RTX3090
メモリ:64GB ×2台【Kazuyaさんのようなクリエイティブをする人におススメのPCはこちら】
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